・・いきいき健康ひろば報告集・・
(↓の2項目の文字の上をそれぞれクリックして見てください)

「いきいき健康ひろば」事業の概要
 矢久保 学
熟年体育大学の健康な地域づくりと地域のスポーツ
 矢久保 学


このページのトップへ

「いきいき健康ひろば」事業の概要

福祉計画課

1 事業の背景

(1) スポーツの豊かさを活かして
近年、健康増進の視点から「スポーツの豊かさ」(豊かな機能)が再認識され、従来の中心であった勝敗にこだわる競技スポーツではなく、ジョギングやウォーキングといった「健康づくりのためのスポーツ」を楽しむ人々が急増しています。
スポーツの豊かさとは、単に勝つために体や精神を鍛えるだけではなく、人々に感動や興奮を与え、感性を磨き、心を癒し、ふれあいや交流を促進し、医学的に健康を増進していく等の豊かな機能を指します。ところが、これまでスポーツには勝利至上主義と結びついた競技スポーツのイメージが強かったために「体を鍛え、勝つための強い精神力を養うもの」といった一面的な発想でとらえられがちでした。すなわち、スポーツの豊かさが充分活かされないままスポーツの普及が図られてきました。
「いきいき健康ひろば事業」は、こうした本来スポーツがもつ豊かさを活かし、「誰もが健康でいきいきと暮らせる地域づくり」を目指していく新しい発想の健康増進事業です。この事業は、平成13年度厚生労働省「老人健康増進等事業」の国庫補助を受け、「松本市地区福祉ひろば事業」(担当:松本市福祉計画課)の身近な地域における健康づくりの一環として取り組みました。

(2) 熟年体育大学の成果を基に
いきいき健康ひろば事業は、平成9年に松本市で始まった「熟年体育大学」事業を母体としています。熟年体育大学は、産官学の協同により進められている運動処方を中心とした先駆的な健康増進事業です。
いきいき健康ひろば事業は、熟年体育大学の成果を地域へ拡大していくことをねらいとし、「熟年体育大学の地域版」として実施しました。講師やプログラムは熟年体育大学に準拠し、これまで蓄積された成果を最大限に活かすことに心掛けました。熟年体育大学の理論的な柱である信州大学医学部付属加齢適応研究センターの能勢博教授と委託契約を締結し、事業の進め方や個別運動処方の提供等についてご指導を賜りながら実施しています。
また、事業カリキュラムの作成については信州大学教育学部の寺沢宏次助教授、現場での指導や安全の確保等については城西病院健康センターの根本賢一健康運動指導士をはじめ熟年体育大学スタッフの皆様からご指導を賜りました。
さらに、「遠隔型個別運動処方システム」(e-ヘルスプロモーション)の開発についてはキッセイ・コムテック(株)の、花岡正明、山崎敏明、滝沢義人、の各氏、「携帯型運動量連続測定装置」(アクティブトレーサ)の開発等については(株)GMSの林列成氏のご尽力を賜る等、大勢の関係者のご努力により熟年体育大学/いきいき健康ひろば事業を推進することができました。関係する皆様のご尽力に敬意を表し心から感謝いたします。

(3) 健康な地域づくりの一環として
いきいき健康ひろば事業は、誰もが健康でいきいきと暮らせる「地域づくり」の一環として取り組みました。その理由は、生活構造の変化等に伴い、地域社会の交流が減少し連帯意識が希薄になるなか、住民の自治意識がさらに重要となり、地域コミュニティの再構築が大きな課題となっているからです。
これまで松本市は公民館活動を中心に身近な地域のコミュニティづくりに力を入れ、住民の自治意識の向上を図ってきました。地区の公民館では、伝統的な球技大会や運動会を開催し、スポーツを通じた交流の促進を図り地域づくりを推進してきました。さらに平成7年からは、松本市独自の「地区福祉ひろば事業」をスタートし、地域福祉に対する意識の向上や介護予防を推進しています。しかし、行政にはタテワリ的な発想が強く、必ずしも総合的な地域づくりには至たっていないのが現状です。地域の健康づくりに関しては、ヘルスプロモーション的な発想が希薄で、スポーツをはじめ福祉や教育と保健・医療の連携を考えていくことが重要な課題となっています。
こうしたことから、いきいき健康ひろばはスポーツを中心とした個人の生活習慣病対策だけに留まるのではなく、スポーツを通じた住民相互の交流や地域連帯を促進し、総合的な「健康な地域づくり」を目指していきます。将来的には、寝たきりになっても支え合える仲間づくりや自ら地域づくりに貢献していく人材の育成につながっていくことが期待されます。いきいき健康ひろばは、まさに「総合的な地域づくり」の一環だと考えてきました。
本稿は、平成13年度いきいき健康ひろば事業の実施概要についてまとめたものです。(事業の効果等については別の報告書・論文をご参照ください。)

2 事業の目的と特色 

(1) 熟年体育大学の効果 
利便性や経済効率が優先される現代社会において、運動不足による健康被害はかなり深刻な社会問題になりつつあります。ある研究結果によると現代人の運動量は40年前と比較して半分以下に減少しているということです。
これまで様々なスポーツ教室等の取り組みがなされてきましたが、一過性で終わってしまう実践がほとんどでした。スポーツの重要性を知識として理解していても継続した運動をしていくことはかなり難しい課題でした。
松本市で平成9年から始まった「熟年体育大学」は、スポーツの楽しさを理解し、自らが健康づくりの主体となって運動を継続していくための新しい発想の事業です。熟年体育大学の基本は毎日1万歩以上歩くウォーキングにありまが、これを継続していくためには、万歩計を使ったウォーキング日誌や定期的な血液検査、体力測定等の科学的データが励みになり、さらに受講生同志が仲間づくりを通じて励ましあう等のプログラムが駆使されています。
毎日1万歩のウォーキングを継続する効果として、血圧を正常値に下げ、悪玉コルステロールや中性脂肪の値を低下させ、心臓病や脳梗塞等循環器系の疾病を予防することが確認されています。熟年体育大学は平成12年度から2年生となって筋力トレーニングのプログラムが導入されました。介護予防への効果はますます高まっています。受講修了生は既に800人を越え、体力医学的にも心理的にも大きな効果が認められています。もし、熟年体育大学の拡大が健康のままいきいきと生活できる期間の延伸に結び付けば、将来の医療費の削減に大きな効果があると期待されています。

(2) 地域拡大のモデル
いきいき健康ひろば事業は、これまで市の総合体育館を中心に活動していた熟年体育大学の理念やプログラムを地域で実践し、その成果を地域へ拡大していくためのモデル事業です。地域へ拡大していく意義は、単に受講生の利便性を考慮した参加者の拡大ではなく、身近な地域に住む住民同志が連帯意識を向上し、お互いに励まし合いながら健康づくりを進めていくことにあります。
近年、福祉分野では安心していきいきと暮らしていくための地域コミュニティの再構築が大きな課題となっています。健康づくりやスポーツを個人的な課題として地域から切り取って考えるのではなく、地域づくりの発想を住民同士が共有しながら、自らが健康増進の主体となって「健康な地域づくり」に参画していくことが重要だと考えます。熟年体育大学が地区福祉ひろば事業と連携することにより、これまであまり運動に縁がなかった人々にも運動の楽しさや地域における仲間づくりの大切さを広げ、将来的には共に支えあう地域づくりを進めていくことにつながっていくことが期待されます。
熟年体育大学が掲げる理念は、「楽しく, 仲良く, 健康で」です。地域への拡大は、ほぼ完成された熟年体育大学のプログラムを一般化し、熟年体育大学の理念を一層具現化したものだといえます。

3 モデル地区の選定・募集

(1) 地区を単位として
松本市には旧村または小学校区程度を範囲とした「地区」と呼ばれる29の行政地区を設定しています。松本市はこれまで公民館活動を中心に地区を単位とした身近なコミュニティづくりに力を入れてきました。さらに平成7年からは、各地区に地域福祉づくりの拠点となる地区福祉ひろばの整備を進め、地域住民の主体性を重視した地域福祉を推進してきています。
今回のいきいき健康ひろば事業では、旧市部と新市部から各1地区をモデル地区に選定しました。熟年体育大学が実施されている松本市総合体育館が松本市の北部に位置することから、モデル地区は南部地域から選定するように心掛けました。

(2) 地域の特色を活かして
選考の結果、鎌田と芳川地区をモデル地区に選定しました。地区拡大のモデルとしては始めての事業であるため、まず大切なことは地域の理解と協力を得やすい地区を選定することが第一条件でした。さらに、両地区とも地区体育館、公民館、福祉ひろばの施設が隣接し、連携が取りやすいことも大切な選考の基準となりました。
平成14年3月1日現在、鎌田地区は松本市の旧市部で、中心市街地から3kmほど南西部に離れた住宅街であり、文教地区です。人口は18,051人、町会数は17です。芳川地区は、旧芳川村が昭和30年に合併してできた地区で、市の南部に位置します。かつては農村地帯でしたが、現在は幹線道路沿いに郊外型店舗が立ち並ぶ新興住宅地となっています。人口は16,048人、町会数は8です。どちらの地区も健康やスポーツに対する住民の関心が高いことが特色です。
また、両地区では、町会長をはじめ民生委員、保健補導員、体育指導員等の住民の皆さんから積極的なご協力をいただきました。そして、両地区の公民館は共催で、地区担当の保健師は協力という地区ごとのスタッフの連携も図られました。

(3) 受講生の募集
受講生の募集は、町会長会や福祉ひろば事業推進協議会等での打ち合わせを経て、鎌田、芳川両地区別に参加者募集チラシの回覧を行いました。今年度初めて実施する事業ということで、チラシの回覧だけでは事業の内容が理解できず人が集まりにくいことを予想し、町会長をはじめ関係者の皆さんから積極的名な声掛けをお願いしました。募集期間は8月15日から9月10日までとし、両地区の福祉ひろばと公民館で受付けました。両地区とも定員を越える応募があり抽選会を実施しました。
いきいき健康ひろば事業の具体的な内容や効果について、特にこれまでの健康教室との違いを周知していくことは難しい課題でした。そのため、町会長会や民生児童委員会、福祉ひろば事業推進協議会等の機会に出掛けて説明しました。8月24日には約100名の住民が集まり芳川公民館で信州大学の能勢先生を講師に迎えた事前学習会を開催しました。

4 カリキュラムの作成と実施準備

(1) カリキュラムの作成
カリキュラムの内容や講師は信州大学教育学部の寺沢宏次助教授にご指導いただいたことから比較的スムーズに決定できましたが、年度途中からの実施ということで、施設の確保と各講師の先生との連絡調整に大変苦労しました。カリキュラムの日程は年度当初にある程度決定しておくことが大切でだと痛感しました。
いきいき健康ひろば事業は毎日一万歩以上のウォーキングの実施を基本とすることから、毎月のカリキュラムは、運動を継続するためのプログラムのひとつに考え、受講生が出会い、運動する楽しみを学び、お互いに励ましあう仲間づくりを進めていく重要な場として位置づけました。
カリキュラムには、ゴルフやテニス、太極拳、調理実習等熟年者が普段あまり体験できない内容を取り入れました。これは、受講生が事業の参加に対してわくわくする新鮮な気持ちやチャレンジ精神を持つことにより、さらに参加する意欲を掻き立てることを意図しています。受講生同志が新しい体験に挑戦することが仲間意識をさらに強くしているようです。完成したカリキュラムは別表のとおりです。

(2) カリキュラムの実施
カリキュラムの実施については、城西病院健康センターの根本賢一健康運動士に総合的なご指導をいただきました。熟年者を対象とすることから、最も気をつけなくてはならないことは、事故が起こらないようにすることでした。体力測定の際には、あまり頑張りすぎないように指導することが大変重要でした。事故防止のため、その日の体調によって運動量の加減をする必要があるため、カリキュラムの初めには毎回保健師による健康相談を実施することとしました。
カリキュラムの質を確保するため、終了後はその日の反省と次回の進め方についてスタッフ会議を実施するとともに、受講生の反応を確認するため、毎回簡単なアンケートを実施しました。
また、運営をスムーズに行い、講座の雰囲気を盛り上げていくために、両地区ともに受講生の数名に「運営委員」をお願いしました。鎌田地区では10月18日、芳川地区は10月4日に運営委員の打ち合わせ会議を開いています。

5 カリキュラム以外の事業

(1) アクティブトレーサ説明会
アクティブトレーサは、信州大学医学部の能勢博教授と(株)GMSの林列成氏が共同で開発した携帯型運動量連続測定装置です。アクティブトレーサは、これまで万歩計では計測できなかった運動の強度に対応したカロリー消費量を測定できる画期的な装置です。すなわち、歩数であれば早く歩いても飛び跳ねるように歩いても変化がないのですが、アクティブトレーサは三軸方向で計測したデータを基に運動消費カロリーとして計測値を表示することが可能です。
これにより、例えば通常のウォーキングに少し早足の歩行を短時間間隔で繰り返す運動(インターバルトレーニング)で、どれだけ「心肺持久力」を向上させることができたか簡便に把握することができるようになりました。
新開発のアクティブトレーサ(改良普及型)は、今回のいきいき健康ひろば事業で初公開されました。このため、まずスタッフが集まって使用方法を研修し、いきいき健康ひろばでどのように活用していくか検討しました。そして、このアクティブトレーサを鎌田と芳川の受講生に利用していただくために簡単なマニュアルを作成し、取り扱い説明会を12月4日に総合体育館で開催しました。

(2) アクティブトレーサの電池交換、データ転送
いきいき健康ひろば事業で使用するアクティブトレーサは、意識的に運動する際に1分間隔で消費カロリーが計測・記憶できるように設定しました。このレベルで記録すると1日3時間程度の運動で約2週間分のデータをアクティブトレーサ内に自動的に記録・データ蓄積をすることができます。受講生の皆さんには、蓄積されたデータを総合体育館に設置したホストコンピュータに転送するため、約2週間に1回福祉ひろばにアクティブトレーサをご持参いただきました。この際に、血圧、身長、体重を計測しアクティブトレーサの初期値を再設定しました。約1か月に1回は電池交換も実施しています。
アクティブトレーサを活用することで、毎日何時にどれだけの運動をしたかをグラフ化して受講生の皆さんに運動記録をお渡しすることができました。受講生にとっては、自分の運動記録が一目瞭然にグラフ化されることで、運動を継続していく大きな励みになったようです。このグラフを見ながら受講生同志が運動や健康の話に花を咲かせている光景が多く見受けられました。
また、例えば、お正月にあまり運動しなかったことや毎朝定期的に歩いていることが克明にデータとして蓄積されるため、スタッフは「一応毎日歩いています」といった曖昧な自己申告ではなく、実際にどれだけ運動したか科学的なデータを基に個別運動処方を判断することができるようになりました。
なお、アクティブトレーサの運動消費カロリー記録のグラフ化やデータ転送用のソフトは、キッセイ・コムテック(株)により開発されたものです。

(3) 熟年ピックへの参加
熟年体育大学にはこれまで約800人の受講修了生の皆さんを対象としたフォローアップ講座を開講してきています。「熟年フェスティバル」はその一環として1月20日(日)に総合体育館で開かれることになり、鎌田・芳川のいきいき健康ひろば受講生が37名参加しました。全体では約500名の方々が参加していました。
熟年フェスティバルの主な内容は、午前中に熟年体育大学でお馴染みの講師がレクリエーションや講義、午後はコカリナづくりやつる篭づくり、デジタルカレンダーづくり、骨密度測定等の体験コーナーでした。受講生は一日楽しくこのスポーツイベントを満喫しました。各地区では伝統的な運動会が開催され毎年人集めに苦労しているのですが、スポーツを楽しみ自らの健康を考える同志が自発的に集って開催できるスポーツイベントは、将来の運動会のあり方にも大きな示唆を与えていると感じました。
いきいき健康ひろば事業を今後さらに継続・拡充していくと問題になるのは、受講修了生に対する継続したフォローアップです。いきいき健康ひろばの目的は、自らが運動を継続していく主体となることですが、切っ掛けを作っただけでは継続が難しいという受講生の声が多く、また、継続した体力や血液の値から健康状況を把握して介護予防に努めるといったアフターフォローが重要になります。これまで地域で実施されてきたスポーツや健康教室を体系的に結び付け、地域でフォローしていく体制を考えていきたいと思います。

(4) 個別運動処方の提供
受講生の多くは血液検査、体力測定、形態測定の結果に大きな関心があるのと同時に、自分に合った運動の方法を知りたいと思っています。これまでの健康教室では血液検査、体力測定、形態測定等の科学的なデータを基に専門家が関わるという体制はほとんどありませんでした。科学的なデータを基にした個別運動処方の提供は、いきいき健康ひろば事業の大きな特色です。
いきいき健康ひろば事業は熟年体育大学の地域版であり、総合体育館(熟年者健康スポーツ支援センター)等から離れた場所においても熟年体育大学に準拠した質の高いプログラムを提供し、専門のスタッフを派遣できる体制が必要とされました。そのため、遠隔地においても双方向で情報を提供できる新しいシステムが必要になりました。キッセイ・コムテック(株)が開発した「遠隔型個別運動処方システム」(e-ヘルスプロモーション)は、福祉ひろばと熟年者健康スポーツ支援センターのパソコンをインターネットで結び、受講生個人のウォーキング記録、血液検査、体力測定、形態測定の結果をホームページ上に公開する画期的な双方向健康増進ネットワークシステムです。システムの開発は既にほとんど終了し、ホームページは4月以降に公開予定です。このシステムは、全国的に注目されています。

6 事業の総括と今後の展開

(1) 健康づくりの主体化
今回実施したいきいき健康ひろばの最大の成果は、参加者の健康づくりに対する主体化が進んだことだと考えます。運動の大切さを知識として理解しているだけでは運動が継続されにくいため、いきいき健康ひろばではまず運動する楽しさを学び、仲間同志が励まし合い、自らの健康づくりに対する関心を高め、結果的に健康の主体形成に大きな成果を収めることができました。
実際の現場で感じたことは、少しの時間でも運動するように心掛ける参加者の意欲的な意識と姿勢です。これまでの健康講座やスポーツ教室を開催したときの参加者の反応とは明らかに異なり、参加者の健康づくりに対する主体化が確実に進んだことが伺えました。

(2) 体力医学的な効果と筋力トレーニングの導入
今回のいきいき健康ひろばでは、各地区2~3名の体力医学的な向上が認められましたが、総体的にはめだった数値の向上は認められず、多くは現状維持でした。実施が3か月という短期間であったことや、冬季の実施であったこと等が要因として考えられます。しかし、これまでの熟年体育大学の経験から冬期間は数値が悪化する傾向が見られることから、現状を維持したという事は、効果があったと考えてもいいのではないかと思います。いきいき健康ひろばは、既に効果が明らかになっている熟年体育大学の講師とプログラムを導入していることから、次年度以降も継続実施することによって効果を確認できるものと思われます。
また、熟年体育大学では筋力トレーニングの重要性と効果が注目されており、さらに効果を上げていくためには、いきいき健康ひろば事業の一環として地域で筋力トレーニングを実施するモデル事業を検討していきたいと考えます。

(3) 遠隔型個別運動処方システムの開発と試行
いきいき健康ひろばでは、並行して開発された「遠隔型個別運動処方システム」を試行的に運用し、双方向型健康増進システムとして有効であることが確認されました。
このシステムは、運動を継続し、健康状態をチェックしていくための情報が提供され、個人的にもアクセスが可能ですが、熟年体育大学のソフトと結びつくことでさらに高い効果が得られます。すなわち、ITシステムが独立してあるわけではなく、熟年体育大学の専門的な関係者、受講生の仲間、地域の専門的な職員等を有機的に結びつけるための支援ツールだといえます。「遠隔型個別運動処方システム」の全体像は、地域全体を巻き込んだ健康増進システムなのです。
このシステムを普及・拡大していくことにより、保健・医療に依存しがちな健康づくりの発想を転換し、まさにヘルスプロモーションとしての「健康な地域づくり」への発展が期待できるのではないでしょうか。

(4) 「いきいき健康クラブ」の可能性
受講生である地域住民の交流が促進され、仲間づくりが進んだこともいきいき健康ひろばの大きな成果でした。受講生同志は年齢、職業(元の職業)、地域での役職、趣味等がばらばらでしたが、受講が進むにつれて運動や健康に対する共通の話題や問題意識が生まれ、知らず知らずのうちに仲間意識が育っていました。そして、2月の終わり頃から両地区のそれぞれの受講生の皆さんから、せっかく仲間もでき、運動を続けるようになったのだから、これを継続していくためのサークル化を進めていきたいという要望が自発的に上がってきました。
市としても、修了後も運動を継続し、地域づくりを推進していくためには、サークル化して受講生同志が共に支えあう仲間となることが重要だと考えていました。そこで、血液検査や体力測定等の機会と定期的に集まることができる環境整備を「いきいき健康クラブ」支援事業として考えていくこととなりました。
早ければ受講終了後の4月に両地区で「いきいき健康クラブ」(仮称)が結成されそうな勢いです。こうした住民の自発的なサークルの組織化は、伝統的なスポーツ大会や単発的な地域健康教室のあり方、そして老人クラブのあり方にまで大きな示唆を与えることになりそうです。
事業後のアフターフォローを考えていく場合、「いきいき健康クラブ」(仮称)は、大変重要な受け皿になることが期待されます。市がどのように「いきいき健康クラブ」(仮称)を支援していくかが問われています。

(5) 職員の連携と将来構想
鎌田・芳川地区の福祉ひろば、公民館、地区担当の保健師はうまく連携を取りながら進めることができました。ヘルスプロモーション的な発想で全市的に取り組むにはまだかなりの時間が必要だと思いますが、地区ではそれぞれの担当職員の連携で「健康な地域づくり」を進めることができると確信しました。来年度以降は今年度の事業を参考として、さらに役割分担を明確にしていきたいと思います。とりわけ「いきいき健康クラブ」をどう支援していくかはそれぞれの担当職員の知恵と労力を結集していく必要があります。
今回のいきいき健康ひろば事業は熟年体育大学の成果を地域へ拡大していくモデル事業としての位置付けがありました。結果は、当初の予測を上回る大きな成果と可能性を残すことができました。これまでの固定化された発想を柔軟に捉え直し、身近な地区レベルで「健康な地域づくり」を考えていきたいものです。しかし、課題も少なくありません。さらに広義の介護予防としての運動処方にスポットを当て、全体的な健康づくり構想を創造していきたいと思います。

(肩書きは当時のまま記載しております)

平成14年3月11日
文責 矢久保 学

このページのトップへ


このページのトップへ

熟年体育大学の健康な地域づくりと地域のスポーツ

福祉計画課

1 熟年体育大学の新たな段階

(1) 熟年体育大学の地域拡大
「いきいき健康ひろば」事業は、「熟年体育大学」を母体とし、その成果を地域へ拡大していくことをねらいとしています。熟年体育大学は、構想・プログラム化の段階から総合体育館での実践段階を経て、健康増進や運動継続に大きな効果があることが立証され、開設から5年間で第一の段階を越えることができました。平成13年度に鎌田と芳川地区をモデル地区として始まったいきいき健康ひろば事業は、地域へ拡大していくための調査・研究の一環であり、熟年体育大学が新たな段階に入ったことを意味します。これにより、熟年体育大学では、現在試行している筋力トレーニングを取り入れた新たなプログラムの開発(バージョンアップ)に加え、地域(地区)における実践への支援を含めた総合的なコーディネートのあり方(特に「熟年者健康スポーツ支援センター」の機能)について検討していくことが課題となっています。

(2) 地域で実施する意義
熟年体育大学を地域へ拡大していく意義は、単に総合体育館から遠距離にいる受講希望者の便宜を図るといった補完的な意義に留まらず、“地域(地区)で実施する積極的な意義”があると考えています。その意義とは、熟年体育大学の理念である仲間づくり、コミュニティづくりを地域(地区)に根ざして、顔見知りの住民同士の関係で進めていくことです。地域に根ざした仲間づくり、コミュニティづくりは、将来共に支えあう地域福祉づくりへ発展していくと期待され、それが松本市が独自で進めている「地区福祉ひろば」事業の理念と重なる大切な部分です。また、卒業後の運動継続を考えていくためには、身近な地域のスポーツ環境を整備し、近所に一緒に運動したり励まし合う仲間がいることが重要だと考えており、ここにも“地域(地区)で実施する積極的な意義”があると思われます。
こうした地域で実施する意義とは裏腹に、地域に熟年体育大学を拡大していくためには、地域スポーツの現状や課題を整理し、熟年者健康スポーツ支援センターの機能や支援策を戦略的に考えていく必要があります。地域には公民館や福祉ひろばがあるからといった安易な地域受け皿論では地域への拡大は困難です。

2 新しい健康観の登場

(1) 健康福祉の概念
WHO(世界保健機関)が1948年に設定した健康の定義は、「健康とは身体的、精神的および社会的に完全に幸せ(安寧)な状態であり、単に病気でないとか、病弱でないとかいうことに止まるものではない」というものでした。それから半世紀が経過した1998年、WHOでは健康の定義をさらに一歩深めたものに変えていこうという提案がなされています。新しい健康観の素案は、「健康とは身体的、精神的、社会的および全霊的に完全に幸せ(安寧)な動的状態であり、単に病気でないとか、病弱でないとかいうことに止まるものではない」と提示されました。これまでの健康観に“dynamic(動的)” と“spiritual(全霊的)”という発想が付け加えられたのです。WHOでは、この素案をまだ採択していませんが、健康づくりの基盤として「幸せ(well-being)」があることが強く意識され、「福祉」と共通する思いが込められています。そこでこれからは、健康づくりと福祉づくりを別々に考えるのではなく、「健康福祉」という統合概念で考えていくことが求められ、人間中心の発想による暮らしに根ざした自助・共助・公助の原則が重要になってくるのだと思います。これはヘルスプロモーションにもつながる考え方です。

(2) 健康な地域づくり
健康は、誰にとっても掛け替えのないものですが、かといって健康は人生の目的そのものではなく、自分らしくいきいきと暮らしていく自己実現のための手段だと考えられています。したがって、健康づくりの目的は、「単に病気にならないことではなく、暮らしの質を向上し、自分らしくいきいきと暮らしていくこと」だと考えます。これまでの健康づくりは保健や医療中心の発想が強く、個人に焦点を当てた疾病対策的な取り組みが一般的でした。しかし、これからの健康づくりは、スポーツをはじめ地域福祉、住環境、教育等を幅広く包み込んだ総合的な「健康な地域づくり」(ヘルスプロモーション)を目指した住民が主体の健康増進を図っていくものです。病気の早期発見・早期治療(2次予防)に対しては保健・医療中心の考え方が有効なのですが、そもそも病気にならないために生活習慣を改善していくこと(1次予防)に関しては、保健・医療だけに留まらない総合的な発想が必要になってくる訳です。他方、福祉からの発想では、病気になっても、機能的な障害があっても、介護が必要になっても、住み慣れた地域で安心して心豊かに暮らしていくことが可能な地域づくりが求められており、健康と福祉が融合してこそ「健康な地域づくり」が可能なのです。
そこで、運動を通じた健康づくりを進めていく場合には、運動だけに夢中になるのではなく、地域づくりにも関心をもって自ら参加する「健康な地域づくり」の発想を広げていくことが重要になっています。福祉ひろばが大切にしている健康観はまさにこれだと考えています。

(3) ヘルスプロモーションの実践
熟年体育大学は住民一人ひとりの健康増進を図ることにより、結果として医療費の削減が達成できると期待されています。同様に、地域での見守りやちょっとした支え合いが暮らしの安心を生み、結果として介護費用の削減につながっていくことが考えられるのです。医療費や介護費用の削減が期待できるからといって、熟年体育大学を上からの発想で進めることは避けなければなりません。運動は個人の自由意志を尊重した選択肢の一つとして考え、運動することを強要するシステムになる危険性を意識していく必要があります。大切なのは、あくまで住民にとってよりよい暮らしの質(QOL)の向上であり、誰もがいきいきと暮らしていくことなのです。
熟年体育大学を地域へ拡大していくことは、すなわち総合的な「健康な地域づくり」(ヘルスプロモーション)の実践であると考えていきたいと思います。

2 福祉ひろばの新たな健康づくり

(1) 福祉ひろばとは
「いきいき健康ひろば」事業には、「地区福祉ひろば」事業(担当:健康福祉部福祉計画課)の一環としての位置付けがあります。福祉ひろば事業は、身近な地域で住民が主体となって地域福祉づくりを進めていく松本市独自の事業として平成7年に始まりました。福祉ひろばは、地域福祉を進めていくための地区の福祉拠点であり、従来の福祉に社会教育(地域づくり)の発想を取り入れた、いわば「福祉の公民館」です。公民館と共に地区でいきいき健康ひろば事業を支えてきたのが、福祉ひろばでした。
松本市は日常生活圏である29地区(旧村または小学校区エリア)すべてに福祉ひろばの施設整備を行う計画を立て、平成13年度までに26地区の整備を終えました。平成14年度末には全地区の施設整備を完了する予定です。
平成12年度からは介護保険制度の導入に対応する介護予防の一環と位置付け、既存施設を利用しながら既に全地区で事業に取り組んでいます。各地区では、住民組織である「地区福祉ひろば事業推進協議会」を核としながらそれぞれの地区の特色を活かした福祉ひろば事業を展開しています。この事業が始まって丸7年が経過した今、福祉ひろばは“身近な地域から「福祉文化」を創造していく拠点”として地域に根づいてきています。

(2) 福祉ひろばの機能
福祉ひろばの機能は、①住民のふれあいの場、②相談の窓口、③地域の健康づくり、④地域の福祉づくり、⑤ボランティア支援、⑥福祉の担い手づくりです。主な活動としては、「ふれあい健康教室」「地区の福祉を語る集い」「地区介護者の集い」「ボランティア参加型訪問給食」「保育園・小学校との交流」「福祉ひろばまつり」等があります。活動は住民が主体となり、それぞれの地区の特色を活かした企画・運営が進められ、活動を通じて地域住民の「地域で共に支え合う意識」が育まれています。福祉ひろばは、派手なイベント的な活動よりも日常的なふれあいの場であることが重要です。例えば、家に閉じこもりがちな高齢者にとっては居心地の良い「縁側」であり「居場所」であることが大切なのです。活動すること自体が目的にならないように、“何に向けての活動か”を意識しながら事業を進めてきました。
これまで福祉施設といえば、特定の対象者への“サービス提供型や収容型”がほとんどでしたが、福祉ひろばは「自治型、創造型の地域福祉づくりの拠点」として誕生しました。福祉ひろばの役割は“暮らしの質の向上を図るための住民の自主的な地域づくりへの支援”ですので、問題を地域から切り離した個人的なケアとは根本的に異なる事業だと考えています。

(3) 福祉文化と福祉ひろばの効果
松本市は、“困った人を助けるための特別な対策”とする福祉の考え方を転換し、「福祉文化」という価値観を見出しました。「福祉文化」とは、誰もが安心していきいきと暮らしていくことを目指した“福祉を中心に据えた地域づくり”のことをいいます。そして、福祉ひろばは“身近な地域から福祉文化を創造していく拠点”なのです。
福祉ひろば事業の効果として、①住民主体の地域福祉システムの形成、②福祉に対する意識の転換、③住民の自立と行政職員の地域づくり職員としての自覚、④閉じこもりの防止といきいきと暮らす健康増進、⑤地域の活性化と地域づくりの進展、⑥地域福祉における地区の競創、個性化、⑦町会における福祉づくりへの波及が確認されています。
 いきいき健康ひろば事業が福祉ひろば事業の一環として実施される意義は「健康な地域づくり」を目指すことにあります。地域での健康づくりには、熟年体育大学の理念や成果と共に、福祉ひろばの理念や成果に学ぶことも重要だと考えています。

3 松本市の地域スポーツ事情

(1) 地域スポーツの概観
松本市では地域でいきいきとスポーツを楽しむ人々が大勢います。早起き野球、ナイターソフト、ママさんバレー、ソフトバレー等のリーグ戦が各地で催されています。少年サッカー、小学生バレーボール、ミニバスケット等のスポーツ少年団の活動も活発で、ゲートボールやマレットゴルフを楽しむ高齢者も大勢います。また、地域では運動会や町会対抗の球技大会が恒例行事として開催されています。地域におけるスポーツは、地域住民同士の交流と親睦が最も大きな目的で、これまでスポーツは地域の連帯に大きな役割を果たしてきました。しかし、伝統的な運動会や町会対抗の球技大会は徐々に形骸化が進み、地域住民の交流や親睦よりも種目や勝負にこだわったゲーム性が重視される傾向も出てきています。特に少年スポーツのクラブの中には、地域にはこだわらず一流選手を目指して活動する傾向が強くなってきています。
他方、ジョギングやウォーキング、ニュースポーツ等、これまでの地域スポーツ大会やサークル活動とは異なる「健康づくりとしてのスポーツ」を楽しむ人々が増大してきています。今後熟年体育大学の成果を地区へ拡大していくことにより、さらに健康志向のスポーツが増加していくものと思われます。

(2) 地域に整備されたスポーツ施設
これまで地域スポーツが活発に行われてきた理由としては、地域の青年団をはじめ公民館や地区体育協会等が地域でスポーツ振興に取り組んできたことが大きいと思われます。また、松本市は身近な地域にスポーツ施設を整備してきたことが理由として上げられます。
松本市は市内を旧村または小学校区程度の範囲に29の「地区」に分け、体育館や運動広場等のスポーツ施設をはじめコミュニティ施設を地区を単位に整備する方針に基づいて整備を進めてきました。コミュニティ施設の地区配置の方針が決定されるにあたっては1970年代に公民館配置の大論争があり、その結果として松本市のスポーツ施設を含むコミュニティ施設は全国有数の設置状況を実現しています。さらに、1985年の「音楽とスポーツ都市宣言」により、身近な地域でスポーツに親しめる環境づくりを進めてきました。
現在、市の主な公共スポーツ施設として、体育館61(内学校開放37)、運動広場66(内学校開放37)、テニスコート81面、マレットゴルフ場7、プール5施設が各地区に分散配置されています。とはいえ、公共のスポーツ施設(学校開放を含む)は、土日祝日と平日の夜間はどこも満杯で、定期的なサークル活動以外で施設を確保することは難しい状況です。

(3) 公民館のスポーツ振興
公民館におけるスポーツ振興は市の農村部(新市部)と、中心市街地(旧市部)では大きく様相が異なります。
市の農村部地域では、運動会や町会対抗球技大会等の伝統的なスポーツ事業が多く、スポーツ事業の比重は公民館事業全体の3割を超えることが一般的です。伝統的なスポーツ事業は、地区住民の親睦や地区の連帯を進めるのに有効な手段として高く評価され、これまであまり大きく改革されることなく引き継がれてきました。ちなみに運動会は、文化祭と並ぶ地区の二大行事として位置付けられ、千人ほどの住民が参加する地区連帯のシンボル的な存在となっています。
芳川地区公民館(対象人口約16,000人)の平成12年度におけるスポーツ事業を例にとると、①バレーボールリーグ戦(10チーム参加)、②早起きソフトボールリーグ戦(6チーム参加)、③ソフトバレーボールリーグ戦(6チーム参加)、④マレットゴルフ大会(2回)、⑤地区体育大会(6種目の町会対抗球技大会)、⑥地区大運動祭(雨天中止)、⑦東南ブロック球技大会(5地区対抗の4種目球技大会)、⑧市民体育大会への参加、⑨バウンドテニス教室(5回)、⑩キッズ体操教室(10回)等が実施されています。毎年6月から11月の間はスポーツ事業が目白押しです。
中心市街地地域の公民館では伝統的なスポーツ大会はほとんどなく、ニュースポーツの講習会や健康体操教室、少人数のスポーツ大会等が取り組まれています。
鎌田地区をエリアとする西部公民館(対象人口18.000人)の平成12年度スポーツ事業は、①ゲートボール大会(12チーム参加で春と秋の2回)ホール経絡体操教室(五回)、②市民体育大会への参加、③社交ダンスパーティー等でした。
各地区のスポーツ事業は、公民館の体育委員が地区の体育協会(体育委員会と体育協会が同一組織の地区もある)や体育指導員と連携を図りながら住民参加で進められています。

(4) 地区体協の「さわやか健康教室」
松本市体育協会は、地域でのスポーツ振興について競技スポーツ中心から健康をづくりを目的とした生涯スポーツへの転換を模索しています。平成3年から始まった高齢者スポーツ教室は、地域へのスポーツの普及、スポーツを通じた仲間づくり、高齢者の健康増進を目的として開催され、平成11年から対象者を40歳以上に広げ、名称を「さわやか健康教室」に変更しました。さわやか健康教室は地区の体育協会が実施主体となって、ウォークラリー、ニュースポーツ、指圧・マッサージ、練功十八法、ダンベル体操等を内容とする全10回程度の講座で、初日と最終日には体力測定を実施しています。平成13年度には、内田、島内、里山辺、東部、田川、笹賀、今井、白板の8地区で開講しています。

(5) 地域のスポーツサークル
松本市の各地区では住民が自主的に運営するスポーツサークルの活動が活発です。芳川地区では、健康体操、エアロビクス、ウォーキング、ヘルシーアップフラダンス、ゲートボール、インディアカ、テコンドー、少年サッカー、少年野球、少年剣道等、七十を越えるスポーツサークルがあります。各地区の公民館は、学校開放を含む体育施設の利用調整や貸館事務等を通じ、地区にあるスポーツサークルの活動を概ね把握しています。そして、チラシによる会員募集やサークル運営への助言等、必要に応じたサークルの支援を行っています。
このように多くのスポーツサークルが地区にあることは、身近な地域にスポーツ施設があることに加え、身近な公民館が何かにつけて支援する体制があることが大きく影響していると思います。公民館では、地区のスポーツサークルはスポーツを楽しむ仲間であると同時に、地区の住民同士である点に注目しています。例えば関係のサークルに地区や町会の催しへの協力を依頼すると、地区のことだからといって快く引き受けていただく場合がほとんどで、ここから地域づくりの担い手が育っていくこともあります。

4  熟年体育大学/いきいき健康ひろばを地域へ拡大していく課題


いきいき健康ひろばは、熟年体育大学の成果を地域へ拡大していくために、2地区でモデル的に始まりました。今後、モデルでの実績を踏まえながら地域への拡大について検討していきますが、地域へ拡大していくための条件整備が必要になります。

(1) 地域の運営スタッフ
地域での運営は、地区福祉ひろば、公民館、地区担当保健師が連携しながら進められています。「健康な地域づくり」に対する共通の認識をもちながら、それぞれの地区の実情に合わせた役割分担をしていきます。
また、地区の受講生や修了生が「運営委員」となって、運営を補助していく体制を構築していくことが重要です。

(2) 支援体制の確立
地域での推進スタッフだけでは運営が難しいため、地域の運営を支援していく体制づくりが望まれます。必要に応じて地区へ職員を派遣したり、各課の調整をしたり、プログラムづくりを行うといった熟年者健康スポーツ支援センターの役割や支援機能を明確化していく必要があります。

(3) 指導者の養成
熟年体育大学は質の確保が重要であり、指導者の質が事業全体に大きな影響を与えます。その人にあった運動処方を事故なく科学的に進めていくためには、学習と経験を積んだ専門の指導者が必要です。熟年体育大学の成果を地域へ拡大していくためには、徐々に専門指導者を増員していかなくてはなりません。指導者の身分も保証していかなくてはなりません。

(4) 施設・設備の整備
地区体育館、運動ひろばがすべての地区に配置されているわけではなく、小学校の体育施設を活用している場合があります。昼間の定期的な利用や体力測定が実施可能な施設を地区ごとに見直し、必要に応じた施設整備を推進していく必要があります。
今後筋力トレーニングを実施していくとすれば、地区体育館にトレーニング機器の設置も必要です。必要に応じて民間体育施設との連携を図っていくことも大切です。

(5) 予算措置
熟年体育大学を全地区で実施するとすれば、1地区年間の運営費は最低30から50万円程度の予算が必要になります。熟年体育大学やいきいき健康ひろばを体験するための費用は、所得の実態に応じて受講生の自己負担について検討していく必要があります。今後医療費の削減効果等の経済的な分析を重ね、予算に対する費用対効果を明確にしていかなくてはなりません。

(6) 重点方針の確立と計画化
熟年体育大学が全国的に注目されていますが、新しいものを生み出していくためには当然お金も人も必要です。今後、熟年体育大学のあり方を考えていくときには、高度に政治的な判断を含めたゆるぎない「推進のための大方針」が不可欠です。この推進の大方針が力強く存在しなければ、事業は尻すぼみになり、中途半端に終わってしまうことを最も注意しなくてはなりません。
しかし、事業は必ず成功するとは限らないため、まずモデル的な地域で実践を重ね、十分に研究・協議していかなければ危険です。こうしたことを考え合わせると、熟年体育大学事業を専任で計画化していく「準備室」を設置し、専任の職員を配置していく必要があります。また、関係各課がそれをサポートしていくための「関係課による推進会議」も必要です。

5 健康づくりとしてのスポーツ振興の課題

(1)「健康づくりとしてスポーツ」への意識の転換
熟年体育大学/いきいき健康ひろば事業を地域へ拡大していくと同時に、受講修了後に運動を継続し健康増進を図っていくために、地域で「健康づくりとしてのスポーツ」を振興していく課題について考えたいと思います。
松本市の各地区では、戦後間もなく各地区青年団が中心となって復活させた運動会や町会対抗球技大会等の伝統的スポーツ事業を通じて地域住民の親睦や連帯づくりを進めてきましたが、動員型の選手集めや前年踏襲型の運営等の問題によって親睦や連帯の効果が薄れてきているという指摘があります。これに対し健康スポーツ教室等の「健康づくりとしてのスポーツ」は増加傾向にあり、今後の地域スポーツは、健康づくりとしてのスポーツが中心になっていくと考えられます。しかし、健康づくりとしてのスポーツは地域住民の親睦や連帯づくりには結びつきにくいばかりか、事業が単発的で継続した運動習慣の改善には至らないことが一般的でした。健康づくりとしてスポーツは、講座を実施した回数ではなく、受講生の健康づくりに対する主体化が向上していることが重要です。こうしたことから、熟年体育大学の成果を地域への拡大していく事業は、地域スポーツのあり方に大きな示唆を与えることになりそうです。
いきいき健康ひろばで半年間楽しく活動してきた結果、受講生は運動を継続する大切さを体得し、健康に対する意識が驚くほど向上していました。これまでの健康講座やスポーツ教室を開催したときの参加者の反応とは明らかに異なり、健康づくりに対する主体化が確実に進んだことが伺えました。

〈受講生の皆さんの発言から見える意識の変化〉

Aさん:ほんの少しの時間を有効に活用して歩くようになりました。これまでは時間がなくて歩けないと思っていたのですが、自分の心掛け次第だということが分かりました。
Bさん:仕事の合間に10分ほどの時間があるとき、これまでは車の中でぼんやりしていたのですが、今は車から出て歩行運動をするようになりました。
Cさん:かつては近くへも車で出掛けましたが、今は歩くように心掛けるようになりました。歩くことが苦にならなくなっています。
Dさん:駅まで7千歩、スーパーまで千歩という具合に、1日1万歩歩くための感覚ができました。
Eさん:歩行運動を続けて血圧が安定しました。運動の大切さを身をもって体験できましたので、これからも歩き続けたいと思います。
Fさん:腰痛が解消し、物事を前向きに考えられるようになりました。健康は自分からつくっていくものだと意識変革できました。
 
ただスポーツを行うのではなく、結果として健康づくりに対する主体的な意識が形成され、健康増進の効果が明らかになっていく方式で「健康づくりとしてスポーツ」を実施していく意識の転換が求められます。

(2)「いきいき健康クラブ(仮)」の創設(サークル化)
平成13年度のいきいき健康ひろば事業終了後、鎌田と芳川の各地区の受講生から運動を継続していくためのサークル化を望む声が強く出されました。せっかく健康づくりに対する意識はできたのですが、このまま個人任せで放っておかれたのではなかなか運動を継続していくことが難しいという声が圧倒的でした。そこで松本市は、サークル化を含めた運動継続の支援をしていくことを決定しています。
「いきいき健康クラブ(仮)」は、熟年体育大学やいきいき健康ひろばの修了生が集まって自主的に設立・参加していく新しい健康づくりサークルとしてイメージされています。当面5月頃を目途にして鎌田と芳川の両地区で設立できそうです。市は月1回程度のカリキュラムの提供等を通じて支援していきますが、修了生による自主運営を原則としていきます。将来的には、地区体育協会が実施している「さわやか健康教室」との連携も課題です。
また、いきいき健康クラブ(仮)をそれぞれの地域へ拡大していくことを柱としながら、松本流の「総合型地域スポーツクラブ」が設立できるのではないかと考えられています。松本市の総合型地域スポーツクラブは、熟年者健康スポーツ支援センターと連携しながら「遠隔運動処方管理システム(e-ヘルスプロモーションシステム)」を使って継続的に運動量と健康状態をチェックし、健康づくりの情報や地域でのカリキュラムを提供していくことが検討されています。既にある地域のスポーツサークルは総合型地域スポーツクラブに包含され、遠隔運動処方管理システムを利用しながら健康づくりとしてのスポーツを推進していくことも考えられます。さらに、食生活や飲酒・喫煙等の生活習慣を改善し、共に支え合う地域福祉のプログラムも取り入れていくことも課題です。こうした取り組みを通じて地域の指導者的な人材が育っていくことが期待されます。

(3) 体力測定、血液検査等の実施
熟年体育大学は、健康の主体化を進め、運動を継続していくための経験や方法論を蓄積してきました。これまでの健康講座やスポーツ教室の多くが単発的に終わっていたことと比較すると画期的なことであり、その方法論の中身を細かく学んでいかなくてはなりません。(要点を後述)
体力測定や血液検査は、運動の効果を科学的に明らかにすることで、運動を継続していく大きな励みになっています。いきいき健康ひろばの修了生の多くがサークルを設立した場合でも運動を継続していくために必要なこととして体力測定や血液検査を上げています。また、体力測定や血液検査は、長年に亘ってデータを蓄積していくことが介護予防につながっていくため、地域住民が定期的に測定・検査できる環境づくりが重要になります。将来実施地区が増えた場合でも各地区で年に2回程度実施できる支援体制を構築していくため、熟年者健康スポーツ支援センターの大きな支援が不可欠です。そして、各地区で実施する以外に熟年者健康スポーツ支援センターを会場として月1~2回程度体力測定を実施していくことも必要になります。
また、血液検査は各地区で実施できればいいのですが、ヘルススクリーニングや人間ドック等の血液検査を活用することが可能だと思います。その場合には、検査の結果を熟年者健康スポーツ支援センターのサーバに入力するシステム的な管理方法を確立していく必要があります。
現代社会において運動を継続していくことは大変難しい課題だという認識に立たなければ、いきいき健康ひろばは“やりっ放し”の事業になってしまいます。いきいき健康ひろばは、ただ最初の切っ掛けを提供すれば良いのではなく、介護予防の効果をさらに高めていくために、受講後どうやって運動の継続を支援していくかを大切に考えていかなくてはなりません。

〈運動継続を支える熟年体育大学/いきいき健康ひろばの要点〉
① 理念の確立と共有化
② 理論的な柱立て
③ 指導者(講師)の質
④ 魅力的なカリキュラムの提供
⑤ 科学的データの管理と情報提供
・万歩計やアクティブトレーサによる日常運動データ
・基本的身体測定データ(血圧、身長、体重、体脂肪等) 
・体力測定データ
・血液検査データ
・筋力測定データ
・既往症等医学データ 
⑥ 個別運動処方の指導
⑦ 指導者・スタッフとのコミュニケーション
⑧ 受講生同志の交流
⑨ 行政との連携と現場での協働
⑩ 多様な専門職種の参加

(4) 個別運動処方の提供
いきいき健康ひろばは、自分自身の健康増進を図っていくために、どれだけの運動強度でどれだけ運動したらいいか個別の運動処方を受講生に提供していきました。受講生の運動の継続に対しても大変効果的でした。いきいき健康ひろばでは、①基本身体測定、②体力測定、③血液検査、④万歩計を使った歩行運動記録(ウォーキング日誌)、⑤アクティブトレーサを使った運動消費カロリーの5つの基礎データを基に個別運動処方を作成しており、精度の高い科学的な運動処方の提供を実現しています。
市では、福祉ひろばと熟年者健康スポーツ支援センターをパソコン通信でつないだ「遠隔運動処方管理システム(e-ヘルスプロモーションシステム)」を利用して双方向の情報を提供していきたいと考えています。将来的には各個人宅から情報を入手できるように改良していきます。しかし、現状では運動処方の作成には、各種データの分析等大変な労力が必要となっています。専門的にデータの解析や運動処方を作成できる人員の配置が必要です。また、新しいパソコンプログラムを開発する等により運動処方の作成作業をさらに効率化していくことも課題です。

(5) 筋力トレーニングの導入
熟年体育大学の実践を通じて、1日1万歩の歩行運動を中心とした運動の継続で血圧やコルステロール等の動脈硬化因子を低下し生活習慣病を予防できる効果が確認されました。しかし、ウォーキングだけでは体力を積極的に向上できないこともわかりました。熟年体育大学で科学的な筋力トレーニングを実施したところ、六十五歳から七十五歳までの受講生の筋力が一年間で平均13%向上しました。筋力トレーニングは、寝たきりを予防する大変有効な手段だということが解かってきています。各地区で筋力トレーニングをどう実施していくかは、既に実践的な課題です。しかし、筋力トレーニングには事故を防止し科学的なトレーニングを進めていくために多くの専門的指導者と予算が必要となります。とりあえず熟年者健康スポーツ支援センターとの連携により出張型の指導をモデル的に実施していきたいと思います。場合によっては民間のフィットネスクラブとの連携も視野に入れていく必要があると思います。

(6) 地域スポーツ施設の整備と開放
スポーツは一部の愛好家のためでなく、障害者を含む誰もが身近な地域で楽しめる環境づくりをしていくことが重要です。地域でスポーツを振興していくためには、スポーツの重要性と楽しさへの理解を広げ、それぞれの地域生活に根差した身近にスポーツができる環境づくりが最も大切だと考えます。予算的には大変厳しいのですが、身近なスポーツ施設の整備、施設のバリアフリー化、そして無料または廉価な施設利用等の条件整備をさらに進めていかなくてはなりません。
また、せっかくある地域の運動施設ですが、勝負にこだわった種目別のスポーツサークルがやや独占的に使用している実態があります。これからはサークルに入っていない人も、誰でも参加してウォーキングやストレッチ体操ができる「地域住民への開放時間」を設置していくことが望まれています。特に冬期間のスポーツ環境をつくることは大切です。また、今後筋力トレーニングを地域で実施していくとなれば、トレーニング機器の設備が必要になります。

6 おわりに

スポーツは本来遊びから進化したものだといわれていますがですが、わが国では明治時代に富国強兵の手段として取り入れられて以来、思想善導や国威発揚の手段として政治的に利用されてきた歴史があります。勝つことを第一の目的とする勝利至上主義と結びついたスポーツは、根性・忍耐・服従というスポーツ風土をつくり、一般的に学校や企業では教育や競技の性格が強いスポーツが普及促進されてきたのです。その結果、スポーツとは無縁の「運動嫌い」が生まれ、スポーツは好きな人と嫌いな人に色分けされてきました。地域のスポーツ施設はすべての住民のためにあるという意識は希薄で、一部の愛好家を中心としたものが多いのが現状です。また、高齢者には運動が必要ないと誤解している住民が少なくありません。そうした中で、最近スポーツの意義や健康増進に対する科学的効果が再認識され、従来の教育や競技とは異なる、楽しさを重視した自らの健康づくりとしてのスポーツが広がってきています。熟年体育大学/いきいき健康ひろば事業は、まさにそうした時代の要請を受けた最先端の事業だと考えます。誰もが気軽に楽しくスポーツできる環境づくりは、「健康文化」につながる真の「スポーツ文化」を地域に創造していく第一歩だと思います。
健康づくりとしてのスポーツは、単に運動習慣を体得するに留まらず、「健康な地域づくり」を進めていくものです。現在、世界的に地域コミュニティづくりや住民参加が課題となっているのですが、「健康福祉」の原点である暮らしの質を高めていく地域づくりこそ大切になっているのです。熟年体育大学の「楽しく、仲良く、健康で」の理念を是非地域に広げていきたいものです。

(肩書きは当時のまま記載しております)

平成14年3月11日
文責 矢久保 学

このページのトップへ

トップへ戻る